暑さ一蹴!? 高温に強い乳牛登場 兵庫、北海道で調査

兵庫県が飼養するスリック牛。6カ月齢時点では、毛の長さに大きな違いは見られないという(県提供)乳量減少幅は3分の1 受胎率向上も期待
地球温暖化の影響で夏場の暑さが厳しさを増す中、毛が短くて高温に強い乳用牛「スリック・ホルスタイン」の導入に動く産地が増えている。行政や民間の研究機関が試験導入し、乳量や乳質、種付け時の受胎率を調べる研究を進める。夏場の乳量の落ち込み幅が3分の1に抑えられるとの報告もあり、酪農経営の改善につながる可能性がある。(北坂公紀)
乳用牛の暑さ対策は現在、送風機やミスト(細霧)冷房など畜舎環境の改善が中心だ。ただ、近年はこうした対策では限界があり、乳量の落ち込みや受胎率の低下が課題。こうした中で牛そのものを変える対策がスリック牛だ。2021年に精液の一般販売が始まった。精液は、海外の種雄牛から採取し輸入される。
兵庫県は23年度、スリック牛の導入に向け実証試験に乗り出す。27年度までの5年間で、乳量や乳質、種付け時の受胎率などを調べる。県所有の乳用牛に種付けし、毎年4頭程度のスリック牛を産ませて試験に用いる。
県の試算によると、搾乳牛50頭の経営の場合、全てスリック牛に置き換えることで夏季(7~9月)の生乳の売上高は約5%(約80万円)増える。県内では、夏季は乳量が7%落ち込むという。海外の研究結果に基づき、この落ち込み幅が3分の1に抑えられると仮定して試算した。
県立農林水産技術総合センター淡路農業技術センターの石川翔主任研究員は「スリック牛は乳量に加え、受胎率の改善も期待される。精液の価格も一般的なものと変わらず、酪農家の経営改善につながる」と期待を寄せる。
現状、国内で一般販売されている精液は、産子の半分しかスリック牛にならないのが課題だ。ただ、精液を輸入する野澤組(東京都千代田区)は「将来的には、全ての産子がスリック牛になる精液が販売される」とみる。
国内の生乳生産の半分以上を占める北海道では、ホクレンとジェネティクス北海道が調査を進める。ジェネティクス北海道は「夏場の暑さが厳しさを増す中、乳用牛の暑さ対策は喫緊の課題。スリック牛は有用な選択肢の一つだ」と強調する。
<ことば> スリック・ホルスタイン
「スリック遺伝子」と呼ばれる、体毛が短くなる遺伝子を持つホルスタインの一種。一般的なホルスタインよりも暑さに強い。同遺伝子は元々、南米の熱帯地域の在来牛が持っていた。交配によってホルスタインに導入された。
引用:https://www.agrinews.co.jp/news/index/137748